松平家菩提所大樹寺[1]岡崎城へのビスタライン

松平家(徳川将軍家の祖)菩提寺の成道山大樹寺(じょうどうさんだいじゅじ)は浄土宗鎮西派(総本山は知恩院)に属し松安院を号する。本尊の一光千体阿弥陀如来は鎌倉初期の作と言わる。
松平八代墓譜代林家の墓がある。

三門 鐘楼
山門鐘楼(愛知県指定文化財)
三代将軍家光の建立。三門樓上の「大樹寺」の扁額は後奈良天皇の宸筆で重要文化財。

 

■大樹寺の創建
應仁元年(1467)8月23日の井田野合戦で尾張品野・三河伊保の兵と戦い勝利した松平親忠(松平4代、安城松平家初代)は、夥しい戦死者達を敵味方を区別せず弔おうと死骸を集めて千人塚をつくって慰霊した。
しかしその後も兵の亡霊の叫びが絶えず、悪疫が流行したことを憂いた親忠は、㔟誉愚底上人(せいよぐていしょうにん)に山越の弥陀の書像を託し7日夜の別時念仏会を営ませて鎮魂した。井田野は魂場野(こんばの)と呼ばれるようになった。
文明7年(1475)2月22日、親忠はその報恩に愚底上人を開山として大樹寺を建立し安城松平家の菩提寺ろしたとされる。
長親の代に安城家が松平総領家となったため松平宗家の菩提寺として大樹寺公寺と称し、天文10年に勅願所に准じ、寛永18年重修し田禄700石を受け、20有余の末社を持つ東海の名刹となった。
元和2年(1616)に家康の遺言で徳川歴代将軍の位牌所とされ、14代将軍家茂までの位牌が納められている。

本堂 多宝塔
本堂多宝塔(たほうとう)
本堂は桁行・梁間7間、入母屋造の本瓦葺。外陣が方丈のように三区分するものと凹形のもの2つの形式を取り入れている。岡崎市指定文化財。
安政2年(1855)の火災で本堂と大方丈を焼失し、安政4年やや規模を縮小して再建。
大方丈の障壁画は土佐派冷泉為恭の作で重要文化財。

多宝塔(付棟札/むなふだ)は室町時代の天文4年(1535)に松平7代清康(きよやす)建立の二重塔。国指定重要文化財。
下層は方三間・総円柱・斗組二手先尾垂木付、上層は白漆喰塗りの亀腹上に円形の塔身を立て四手先で軒を支え、屋根は桧皮葺、鉄製相輪を上げ、軒隅には風鐸がつるされている。塔内部には禅宗様の須弥壇を置いて上に春日厨子を据え本尊の多宝如来像を安置している。

 

■大樹寺の陣と家康
永禄3年(1690)年5月19日今川義元が桶狭間の夜襲で織田信長軍に討たれた報を、今川方で19歳の松平元康(松平第9代。後の徳川家康)は大高城で聞き、夜に城を脱出。翌日大樹寺に入る。
元康の大高撤退は諸説・諸作あり、元康が先祖の墓前で自害しようとしたのを、当時の住職登誉天室上人(大樹寺13世)が訓戒して思い止まらせたとも伝わる。

『三河後風土記』では大樹寺に残った者は酒井雅楽助・本多吉右衛門・本多弥八郎・大久保七郎右衛門・大須賀五郎左衛門・石川与七郎・菅沼藤十郎・林藤助・平岩七之助・阿部四善九郎・松井左近・内藤四郎左衛門・内藤源左衛門・鳥居彦右衛門・榊原小平太・松平主殿助・松平若狭守・松平八郎五郎等とその外勇士50余騎、雑兵600余が民家を宿にした。

織田方の追手の一隊が迫ると、武者達だけでなく大樹寺の僧達までも登誉上人の指示で「厭離穢土 欣求浄土」の旗を立てて立ち向かい、大力無双の祖洞和尚が門の貫木を引抜いて武器として奮戦し、敵を退散させた。
かくして23日、元康は岡崎城に入ることが出来た。(『天文年記録』等)
元康はこの八文字を座右の銘とし、この時の大貫木を開運の貫木として尊信し今も寺に安置され、多数存在するが元康が陣中で書いたという「陣中名号」も珍蔵されているという。

開山堂 舎利殿
開山堂(かいざんどう)と舎利殿
桁行・梁間3間、宝形造の浅瓦葺。屋根の頂上には露盤・宝珠を上げている。
ひとつの空間となっている内部の天井は格天井、床は畳敷。背面に半間幅の箱仏段を設けている。江戸時代前半の建立と推定される。岡崎市指定文化財。
開山堂の敷地には歴代住職の墓所として卵形の無縫塔(僧の墓塔として多く用いられる)や墓碑が並ぶ。

舎利殿には舎利の粒が安置されている。

 

ビスタ(眺望)ライン…大樹寺と岡崎城を結ぶ標高差を利用した南北約3kmの直線

三門と総門 大樹寺総門から臨む岡崎城
▲本堂から見た三門と総門。総門の中に絵画のように納まる岡崎城
徳川3代将軍家光が家康公の十七回忌を機に「祖父誕生の地を望めるように」と松平家菩提寺大樹寺の本堂~山門~総門(現大樹寺小学校南門)を通して、その真中に岡崎城を望むように伽藍を整備した。

岡崎城天守閣から見た大樹寺 岡崎城天守閣
▲岡崎城から見た大樹寺(写真中央)と現在の岡崎城天守閣(大樹寺側の方向から)
天守閣は再建されても、往事のままの歴史的眺望は今も保たれている。

所在地:愛知県岡崎市鴨田町広元5-1
大樹寺HP:http://home1.catvmics.ne.jp/~daijuji/