日野と新撰組土方歳三[2]佐藤彦五郎と土方家

■日野本郷名主佐藤彦五郎
佐藤彦五郎は文政10年(1827)に生まれ、幼名は庫太(くらた)、通称は彦五郎、名乗は俊正。天保8年(1837)11歳で名主(なぬし)見習役に就く。
下佐藤十二代目を継ぎ日野本郷三千石を管理していた彦五郎は、近隣治安の為に天然理心流三代目近藤周助邦武に入門し、周助の養子の嶋崎勝太(後の近藤勇)と義兄弟の契りを交わす。
その後4年半で免許皆伝となり、屋敷内に佐藤道場を開いた。稽古は殆ど屋外だったが、その後長屋門に稽古場(道場)を設ける。

佐藤道場には近藤勇・土方歳三・沖田総司・井上源三郎・山南敬助等が出入りし、その後新選組を結成してからも彦五郎は精神的・財政的に彼らを支え続けた。

名主の役目のため京には上れなかった彦五郎も、新選組が甲陽鎮撫隊と名を改め行軍した甲州勝沼の戦いにおいて農兵隊「春日隊」を組織して参加。
明治元年(1867)から彦右衛門を襲名し、新選組隊士達の顕彰に尽した。

■土方家との関わり
石田村の豪農、土方義諄(よしあつ。隼人)の長男で盲目の為次郎は浄瑠璃三味線の趣味を通じて彦五郎と親しくよく佐藤家に訪れ、土方家を継いだ三男の喜六(義巌)が亡くなった万延元年(1860)頃からは佐藤家に寄宿していた。
四女のぶ(前名とく)は彦五郎に嫁いでいる。
六男の歳三は11歳で現在の松坂屋に奉公に出るが、番頭との諍いで戻ってからはほとんど佐藤家で暮していた。

 

佐藤彦五郎新選組資料館

日野宿本陣跡の裏手にある佐藤彦五郎新選組資料館
歳三の故郷石田村にも繋がる日野用水に沿って建てられています。

歳三が京から郷里に送ったものはほとんど佐藤彦五郎宛なので、佐藤家の貴重な歳三ゆかりの品が展示されています。
私達が来館した日は佐藤家十六代目の福子さんが板橋での近藤勇146回忌の供養祭出席のため、お婿さんがとても分かりやすい解説とこぼれ話で場を和ませながら展示品を案内して下さいました。

天然理心流神文帳の滲みが血判であること。
力強く整った筆跡の近藤勇の書は頼山陽(らいさんよう。江戸時代後期の歴史学家で漢詩人)の漢詩をよく参考にしたこと。
沖田総司が山南敬助の死を報告した書簡の報告部分のさりげなさの真意、そして沖田が努力家であった逸話。永倉新八の書について。
土方歳三の手紙は短いのが特徴な中ひときわ長い手紙について。京で使用した鉢金を彦五郎へ送った歳三の思いや、長州征伐の折に死を覚悟し形見に日記を彦五郎に送ったのは歳三のこれまでの勤めと戦いを知らせることに等しいこと。

刀身の中子に葵御紋の刻まれ珍重な土方歳三の愛刀「越前康継」は、勝沼戦争後に捕まり拷問に耐えた気概で釈放された源之助(彦五郎の長男、歳三の甥)が官軍に刀を取られてしまったであろうと気遣った歳三が贈った刀で、会津松平容保公から拝領したものと伝わっており、試し切りをした印は、有名な切師の試し切りは刀の価値が上がるとの説明。

歳三愛用の龍笛(横笛)は穴が大きく彼の器用さが感じられます。京から姉ノブへ送られたお土産の猪口のような可愛らしい陶器は何に使うかよく分からなかったけれど「景徳鎮」の高級茶器と鑑定されたそうです。
歳三愛用の黒地に金文字の鉄扇は彦五郎愛用の鉄線よりも小ぶりなもの。その場にいた新撰組ファンが芹沢鴨の名を出して盛り上がりました。

印象に残ったのが彦五郎の刀。見るからに戦場で肩にかつぐ野太刀かと思うほど逞しいもので、説明によると長さ2尺7寸4分・重さ3キロ近くあるそうです。
参戦時に実際に人を斬ったもので歯こぼれや生々しい血痕が錆になっています。このままでは錆が広がり保存が難しいのですが、表面を研磨する手入れをすると刃が細く痩せてしまうため当時のままで残したいとのことです。文化人でありながら鉄扇の大きさといい彦五郎の腕っぷしが名主として贔屓された疑惑(を御茶目にぼそりと呟いていらした)は謙遜でしかないと思いました。

古式銃好きな私が嬉しかったのが文久元年に近藤勇から譲られた短銃の展示です。単発銃だったので没収されずに済んだそうです。

ちなみに都庁に銃の登録に行った際の担当が漫画家松本零士氏だったそうですが、氏は新撰組のファンで喜ばれたそうです。「宇宙戦艦ヤマト」等手がけた作品に隊士の名前が元になったキャラクターも居るとのトリビア。見学客はここで「へー、へー」とリアクション。地球防衛軍に土方、斎藤始、沖田、藤堂、山崎奨…なるほど!
展示物の他に大河ドラマ「新撰組!」出演者さんとの記念写真が飾られ、その時のエピソードも楽しく聞かせてもらいました。そして奥に有るお土産販売コーナーの隊士の肖像絵葉書が彼(佐藤さん)の手描きとのことで一同驚き。プロ並みです。

日野宿周辺の古写真パネルも面白く解説してもらい、資料館でありながら楽しく有意義な時間を過ごせました。この場を借りてお礼申し上げます。こういう和やかな資料館大好きです。

佐藤彦五郎新選組資料館サイト:http://sato-hikogorou.jimdo.com/
所在地:東京都日野市日野本町2-15-5

※記事は資料館で頂いた案内リーフレット等を多く参考にさせて頂きました

参考図書
・相川司『土方歳三
・双葉社ムック『新選組と土方歳三

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